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高松高等裁判所 昭和36年(く)18号 決定

少年 D(昭一八・六・一二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、記録中の法定代理人M子名義の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。所論は、少年の家庭は貧困であつて未だ幼少の弟妹が数人おるから、少年には大いに働いて貰わねばならないのみならず、少年の親権者である母が家庭において少年を十分保護監督することができるのに拘らず、少年を中等少年院に送致した原決定は著しく不当な処分であるというのである。

よつて、所論に鑑み、本件記録及び添付の少年調査記録を調査して、少年の性格、素行、非行歴殊に少年は、昭和三三年五月一三日窃盗保護事件で松山家庭裁判所において保護観察処分を受けたことがあり、昭和三六年三月一六日には同裁判所において原決定説示の第一、第二の(1)、第三の各非行所為があつたため、家庭裁判所調査官の観察に付する旨の試験観察決定の言渡を受けその観察中所定の遵守事項を守らなかつたのみならず再び原決定説示の第四の(3)の非行に及んでいること、少年は、右試験観察中にも正業に就こうとせず、何等の定収入もないのに拘らず実家を離れてアパート住いをし、年齢僅か一七才余りであるのに情婦Y子と同棲生活をするというような無軌道な生活態度であること、少年の家庭は極めて貧困であるのみならず幼少の弟妹は数多く、少年の親権者である母M子は夫の死亡後かまぼこ店に働く傍ら幼少の子女を養育することに手一杯でその日の生活に追われ到底少年を補導監督する能力もないこと、本件犯行の動機、態様殊にその回数の多いこと等その他諸般の情状を考慮すれば、勤労意慾の欠如し、短気、粗暴で自制心の欠ける少年の反社会的な性格を矯正し、好ましくない生活環境から少年を引離し堅実な社会生活に順応さすためには、保護能力の乏しい母親の補導に十分な効果を期待し得ない現在の状況下においては、少年を一定期間少年院に収容して適正な矯正教育を施すことこそ最善の方策であると認められるから、原審の決定は相当であつて、本件抗告はその理由がない。

よつて少年法第三三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三野盛一 裁判官 木原繁季 裁判官 伊東正七郎)

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